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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)92号 判決 1968年6月13日

原告 シービーシー チヤールスブラウン アンド カンパニー インターナシヨナル コーポレーシヨン

被告 芝税務署長

訴訟代理人 青木康 外三名

主文

原告の被告芝税務署長に対する訴えを却下する。

原告の被告東京国税局長に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告の昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税について、被告芝税務署長が昭和四〇年一二月二五日付でした更正及び過少申告加算税賦課処分を取り消す。被告東京国税局長が被告芝税務署長の右処分に対する原告の昭和四一年二月二日付審査請求を同年五月一二日付で却下した裁決を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因及び被告芝税務署長の本案前の主張に対する反論として次のとおり述べた。

一、原告は、その昭和三九年一月一日から同年一二年三一日までの事業年度分法人税について、昭和四〇年三月一日被告芝税務署長に確定申告書を提出したところ、同被告は、昭和四〇年一二月二五日付で右申告に係る所得金額及び税額を増額更正すると共共に、過少申告加算税の賦課決定をし(以下これを「本件更正処分」という)、その通知書が同月二七日原告に送達された。これに対し、原告は昭和四一年二月二日被告東京国税局長に審査請求をしたが、同被告は、同年五月一二日、右請求が法定の審査請求期間を経過しているとの理由でこれを却下する裁決(以下「本件裁決」という)をし、その通知書が同年五年一九日原告に送達された。

二、しかし、本件更正処分及び裁決は次の理由によりいずれも違法である。

(一)  更正処分について

原告東京支店の営業は、独立採算制により本店とは独立して行なわれたものであるから、法人税法上その所得の計算方法等については内国法人と同様に取り扱われるべきところ被告芝務署長は、本件更正処分において、原告東京支店が自己の取引に要した経費を本店の経費と認定し、更に、同支店の回収不能となつた預金についても、これを本店勘定に属することであるとして、これらの経費及び貸倒金を同支店の損金に計上したことを違法に否認した。

(二)  裁決について

1  被告東京国税局長が原告の本件審査請求を却下した理由は右請求が国税通則法第七九条所定の審査請求期間を徒過しているというのである。たしかに、本件審査請求の日(昭和四一年二月二日)が原告に対する本件更正通知書の送達の日(昭和四〇年一二月二七日)の翌日から起算して一箇月以上を経過していることは、原告も認める。しかし、法にいう「処分の通知を受けた日」とは、単なる通知書の送達の日ではなく、社会通念上相手方において当該処分を知りうべかりし状態になつた日を指すものと解すべきところ、本件更正通知書が原告に送達された昭和四〇年一二月二七日には、原告はすでに年末の休日に入つており、翌四一年一月六日にいたりはじめて右処分を知つた。したがつて、その翌日である同年一月七日から起算すると、本件審査請求が法定の一箇月の期間内になされたことは明らかである。かりに、右期間を通知書の送達の翌日から起算すべきものとしても、原告は、本件更正処分がなされたことを知り消ちにこれを翻訳させた結果、昭和四一年一月一〇日にその内容を知ることができたので、原告の税務顧問である公認会計士ウイリアム・ソルターに意見を求め、その進言にもとづいて審査請求をなすべく請求書の作成、翻訳を同人に委嘱した。そして、その際、原告はできるかぎり速やかに審査請求書を作成提出するよう求めたのであるが、ソルターは、会社の責任者が処分を知つてから一箇月以内に提出すれば足りると強調し、同年二月二日にいたりようやく日本文の審査請求書ができたので、即日これを被告東京国税局長に提出した。このような事情からすれば、原告の本件審査請求が法定の期限より僅か一週間位おくれたにつていは、やむを得ない理由ないし宥恕すべき事由があるというべきである。

2  更に、本件裁決は次の理由からしても違法である。すなわち、被告芝税務署長は、本件更正処分と同時に原告の昭和三八年一月一日から同年一二月末日までの事業年度分法人税についても更正処分(以下「前年度分更正処分」という)をしたので、原告はこれについても本件更正処分とあわせて被告東京国税局長に審査請求をしたところ、同局長は、右前年度分更正処分に対する審査請求については、期間経過を理由としてこれを却下することなく、原告の不服の主張を認めて再更正をするからといつて、原告にその審査請求を取り下げさせ、減額再更正処分をした。ところが、本件更正処分に対する審査請求についてだけは、期間経過を理由に却下したのであつて、かかる一貫性を欠く取扱いは平等原則に違反する。

3  本件裁決は、その附記理由として、原告の審査請求が法定の期間を徒過していることを掲げるのみで、原処分に対する原告の不服の事由に対応する理由をなんら附していないから、附記理由不備の違法がある。

4  また、国税通則法第八三条によれば、審査請求に対する裁決をする場合には協議団の議決にもとどいてしなければならないと定められているが、本件裁決書には、例文として「協議団の議決に基き」と印刷されているにすぎず、議決の内容が全然示されていないから、右裁決は同条にも違反するというべきである。

三、被告芝税務署長は、同被告に対する本件訴えが適法な審査請求の前置を欠くから不適法であると主張するが、本件審査請求が適法であることは前記のとおりであるのみならず、本件においては、審査請求の翌日から起算して三箇月内に裁決がなされなかつたのであるから、国税通則法第八七条第一項第一号により本訴は適法である。また、以上の諸般の事情からすれば、本訴の提起は、「裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に当ると解すべきである。

よつて、本件各処分の取消しを求める。

被告ら指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その理由として次のとおり述べた。

一、被告芝税務署長に対する訴えについて原告は、昭和四〇年一二月二七日に本件更正処分の通知を受けたのであるから、国税通則法第七九条、第七六条により同処分に対する審査請求は、その翌日から起算して一箇月内(昭和四一年一月二七日まで)にしなければならなかつたにもかかわらず、その後である昭和四一年二月二日に本件審査請求をしたものであるから、本件更正処分の取消しを求める訴えは、適法な審査請求の前置を欠くものとして不適法である。なお、本件更正処分の通知書が送達された当時原告がすでに年末の休日に入つていたため、同処分を知りえなかつたとの点は否認し、また、本件審査請求が法定の期間内になされなかつたことにつきやむをえない理由があつたとの主張も争う。

二、被告東京国税局長に対する請求について

右に述べたとおり、本件審査請求は法定の不服申立期間を徒過してなされたものであるから、これを不適法として却下した本件裁決にはなんらの誤りもない。

原告は、本件審査請求を却下したことは前年度分更正処分に対する審査請求と取扱いをしたものであると主張するが、右前年度分法人税について減額再更正をしたのは、原告から審査請求がなされたことにもとづくものではなく、それより以前に、原告から担当係官に対し、当初更正には計算上の誤りがあるから訂正してほしい旨の文書が提出されており、しかもそれが明白な計算の誤りであつたところがら、被告芝税務署長が職権にもとづいて行なつたものであり、これによつて、原告は、前年度分更正処分につき審査請求を維持する理由がなくなつたので、その請求を取り下げたのである。したがつて、前年度分更正処分に対する審査請求と本件更正処分に対する審査請求とで被告東京国税局長が相異なる取扱いをしたものではない。また、原告は本件裁決の附記理由の不備を主張するが、不適法な審査請求を却下する裁決には、不適法と認めた理由のみを付せば足りることは当然である。更に、本件裁決が協議団の議決にもとづいてなされたことは右裁決書の記載によつて明らかであるから、この点に関する原告の主張も失当である。

証拠<省略>

理由

一、被告芝税務署長に対する訴えについて

国税通則法第七九条第一項第一号、第七六条第一項の規定によれば、税務署長のした処分で、その処分に係る事項に関する調査が国税局の当該職員によつてされた旨の記載がある書面により通知されたものに不服がある者は、その処分に係る通知を受けた日の翌日から起算して一箇月以内に、国税局長に対し、審査請求をすることができる旨定められているところ、本件更正処分の通知書(これに東京国税局の職員の調査にもとずく処分である旨の記載があることは<証拠省略>により明らかである)が昭和四〇年一二月二七日原告に送達され、これに対し原告が本件審査請求をした日が右送達の翌日から起算して一箇月以上を経過した昭和四一年二月二日であることは当事者間に争いがないから、右審査請求は法定の不服申立期間を遵守しなかつたものといわなければならない。原告は、右期間内に審査請求をしなかつたことにつきやむをえない理由ないし宥恕すべき事由があつたと主張するが、その主張する事情は、ひつきよう原告側の通常の業務運営のもとにおける内部的都合にすぎず、<証拠省略>を参酌しても同法第七九条第五項第七六条第三項にいう「やむを得ない理由」があつたと認めることはできない。してみると、本件更正処分の取消しを求める訴えは、同法第八七条の定める適法な審査請求前置の要件をみたさないものというべく、これについて「正当な理由」その他同条第一項各号所定の事由があつたとも認められないから、結局、右訴えはこの点において不適法たるを免れない(原告は、同条第一項第一号の適用を主張するけれども、同号は、適法な審査請求をしたにもかかわらず、三箇月を経過しても裁決がない場合に関する規定であつて、審査請求が期間経過等により不適法な場合救済するためのものではない)。

二、被告東京国税局長に対する請求について

被告東京国税局長が原告の本件審査請求を不適法として却下したことは当事者間に争いがなく、右審査請求が期間経過により不適法であることは前項に述べたとおりである。原告は、かりに右審査請求が不適法であるとしても、これと同時になされた前年度分更正処分に対する審査請求と異なる取扱いをしたのは違法であると主張するが、<証拠省略>によれば、その間の経緯は被告東京国税局長主張のとおりであつて、本件審査請求と前年度分更正処分に対する審査請求とで同被告がその適否に関する取扱いを異にしたものではないことが認められるから、原告の右主張は採用することができない。また、原告は、本件裁決の附記理由が不備であると主張するが、審査請求を不適法として却下する裁決には、その不適法と認めた理由を附記すれば十分であり、本件裁決書に右の却下理由が附記されていることは<証拠省略>によつて明らかである。原告は、更に、本件裁決は協議団の議決にもとづかない違法があるという。しかし、<証拠省略>によれば、本件裁決は協議団の議決にもとづいてなされたことが認められるから、右の主張も失当である。以上のとおり本件裁決には原告主張の違法事由はなく、他にこれを違法とすべき点はない。

三、よつて、原告の被告芝税務署長に対する訴えを却下し、被告東京国税局長に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曾競 佐藤繁)

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